| アジュバントは抗原と共に投与することにより,抗原に対する免疫応答を促進する物質である。なかでも,オイルアジュバントは抗体誘導能が高く,また,免疫の持続期間も長いという長所があるが,反面,副作用が強く,人体用としての実用化は全く考慮されていなかった。ところが,最近,人体用としてオイルアジュバントが開発されている。免疫増強効果が高い上に,副反応が少ないことが売りである。本稿ではインフルエンザワクチンのアジュバントとして人体用として始めて認可されたMF59オイルアジュバントについて,その免疫活性化メカニズムを中心に解説する。
カイロン社が開発したMF59アジュバントは水溶液にオイル粒子が分散したoil in waterタイプである。オイルとして毒性が低いとされるスクワレンを5%,界面活性剤として0.5%のポリソルベート80(Tween80)と0.5%のソルビタン・トリオレイン酸(Span85)を含む。これらの物質を水溶液中でマイクロフルオダイザー(Model 110Y,Microfluidics社)を用いて12000気圧の高圧でホモゲナイズして,乳化した。0.22μmのフィルターを通し,通過した粒子のみをアジュバントとして用いた。平均粒子径は194±76nmであった1)-3)。
抗原として,ヒト単純ヘルペスウイルス2型のgDタンパク質を用いた。gDタンパク質は膜貫通領域を含むC末端側を欠失した組換え型としてCHO細胞で発現し,98%以上の純度まで精製した。rgDタンパク質を10μgを25μlのPBSに溶解した抗原溶液と25μlのMF59アジュバントを混合し,1ドースとした2),3)。
抗原およびアジュバントを追跡するために,rgDをFITCで,また,スクワレンをDilで蛍光標識した。ワクチンをマウスの右大腿四頭筋に注射し,3又は48時間後に投与部位および鼠径部リンパ節を共焦点蛍光顕微鏡で観察した2)。
蛍光標識したMF59のみを投与した場合は3時間後には投与部位の筋繊維間に観察され,48時間後には細胞に取り込まれている像が見られた。細胞は樹状細胞のマーカーを発現していた。所属リンパ節を調べると,すでに3時間後にはsubcapsular sinusでMF59の蛍光が認められ,48時間後にはT細胞領域であるparacortical regionに移動した。MF59を含む細胞は単球,樹状細胞系細胞であった。
標識された抗原を投与した場合,アジュバントなしでは48時間後には筋肉内から消失していたが,MF59を加えた場合は残存し,細胞内に取り込まれていることが判明した。抗原の蛍光はMF59の蛍光と分布が一致し,MF59は単球・樹状細胞系細胞へ抗原の取り込みを増強したと考察した。
4週間隔で2回投与後,抗体価はMF59アジュバントを加えた群では抗原単独投与群に比べて200〜300倍の高値を示し,抗体のサブタイプがIgG1であることからTh2タイプの免疫を誘導したことが示された。この結果はMF59アジュバント投与後,血中にTh2サイトカインであるIL-4やIL-5が一過性に誘導されること1)と一致した。
以上の結果から,投与されたMF59と抗原は樹状細胞に取り込まれ,所属リンパ節に移動し,T細胞領域で免疫提示をするというメカニズムが考えられた。この経路のうち,MF59アジュバントは少なくとも投与局所での抗原の取り込み促進と,抗原の持続的な提供に関与すると考えられる。MF59の粒子径は従来のオイルアジュバントの粒子径より小さく,細胞へ取り込まれやすいという結果も得られている。
次に,投与部位に集積する細胞のタイプを解析した3)。
MF59アジュバントおよび抗原を投与した後,投与部位を切り取り,コラーゲナーゼ等で消化して浮遊細胞を集めた。細胞数およびタイプをフローサイトメーターで解析した。
投与局所へ浸潤した細胞数は投与2日後にピークとなり,投与6日後でも投与前より優位に細胞数が多かった。抗原単独投与の場合は細胞数の増加は見られなかった。先の文献より,MF59及び抗原の取り込みは単球系細胞が行っていることから,浸潤する細胞は単球系細胞であろうと考え,単球系細胞の走化因子のレセプターであるCCR2を欠失したマウスで細胞浸潤を調べたところ,欠失マウスでは浸潤数が半分以下であった。欠失マウスでもMF59非投与群に比べて優位に細胞数が多かったが,これはCCR2以外の単球系走化因子レセプターの作用と考えられた。
実際,標識MF59を取り込んでいる細胞を細胞表面抗原マーカーの蛍光染色で調べると,マクロファージマーカー,樹状細胞マーカーを発現している細胞がMF59を取り込んでいた。所属リンパ節では,活性化樹状細胞(抗原提示細胞)のマーカーであるCD80,86補助シグナル分子の発現が陽性である細胞がMF59を取り込んでいた。ところが,subcapular sinusでは樹状細胞でない円形細胞がMF59を取り込んでいることが見出された。これらの細胞はTUNEL染色をすると陽性であることからアポトーシスを起こしていることが判明した。
以上から,筋肉内でMF59を取り込んだ単球・マクロファージ系の細胞はリンパ節へ移動してアポトーシスで死に,それを樹状細胞が取り込み,抗原提示する経路と,筋肉内で樹状細胞がMF59を取り込んでリンパ節で抗原提示する2つの経路が考えられた。著者らは考察で,(1)MF59投与で誘導されるサイトカイン1)がDanger signalとして作用し,樹状細胞形を活性化する。(2)MF59と抗原を取り込んだ単球・マクロファージがリンパ節へ移動し,そこでアポトーシスが死ぬ。(3)アポトーシス細胞を貪食処理した活性化樹状細胞が,抗原を提示し,免疫系を活性化したと考えている。
MF59アジュバントはすでに多くの動物種でテストされ,安全性と有効性が示されている4)。ただ,抗原によって,また,動物種によって抗体価の誘導能が異なる。これらの前臨床試験の結果を受けて,老人から幼児まで2万人以上で臨床試験が行われ,その結果,老人に対するインフルエンザワクチンのアジュバントとしてヨーロッパで認可された。すでに数百万ドースが出荷されている。
一方,SEPPIC社の開発中のオイルアジュバント,Montanide ISA 720,Montanide ISA 51も臨床試験中である4)。このオイルアジュバントはmannide monooleateを界面活性剤とし,ISA 51ではmineral oilを,ISA 720ではnon-mineral oilを油性成分として含む。副反応を除去するためには原材料の品質管理が重要で,特に,mannide monooleate中の脂質成分に炎症を起こす作用があり,この不純物の除去が必須とされている。
これらの例から示されるように,従来言われているように,オイルアジュバントだから副作用が強いとか,副作用が強いから免疫増強作用が強いのではない。オイルアジュバント中の副作用を発現する成分や物理化学的構造を除去することが可能である。
注射により異物が体内に注入されると,そのストレスにより,いわゆるDanger signals5)が作られ,単球やマクロファージを呼び寄せる(図左上)。最初にアジュバントと抗原の混合物に接触した細胞は,そこに存在する物質に応じた走化性シグナルを発するに違いない(図右上)。免疫系には感染微生物に由来する物質(Pathogen-associated molecular patterns:PAMPs)を認識するレセプターを自然免疫機構のひとつとして保持しており6)、最近ではToll like receptor群を中心に解析されている。呼び寄せられた細胞群やその細胞表面に存在するPAMPsレセプターの活性化,そこで生産されるサイトカインやケモカインの種類によりその後の獲得免疫の強度や特異性が決定される。この過程が炎症である(図左下)。アルミニウムゲルアジュバントやオイルアジュバントが存在すると炎症反応は長引き,肉芽腫形成にいたる(図右下)。
アジュバントの特徴である免疫の賦活化作用,発熱などの副作用,アジュバント自体の吸収・分解,抗原提示の特徴などは,局所や所属リンパ節での免疫担当細胞の活性化やサイトカイン・ケモカインのレベルで整理できるはずである。アジュバントや抗原に含まれる成分により惹起される細胞レベル・分子レベルでの免疫現象と副作用の関係を整理すれば,望ましいアジュバントの設計方法に指針を与えるに違いない。(研究部・主任研究員)
参考文献
1)J.-P.M.Valensi.J.R.Carlson,and G.A.van Nest.Systemic Cytokine Profiles in BALB/c mice immunized with trivalent influenza vaccine containing MF59 oil emulsion and other advanced adjuvants.J.Immunol.,153,4029-4039,1994.
2)M.Dupuis,T.J.Murphy,D.Higgins,M.Ugozzoli,G.van Nest,G.Ott,and D.M.McDonald.Dendritic cells internalize vaccine adjuvant after intramuscular injection.Cellul.Immunol.,186,18-27,1998.
3)M.Dupuis,K.Denis-Mize,A.LaBarbara,W.peters,I.F.Charo,D.M.McDonald,and G.Ott.Immunization with the adjuvant MF59 induces macrophage trafficking and apoptosis.Eur.J.Immunol.,31,2910-2918,2001.
4)H.Engers,M.P.Kieny,P.Malhotra,and J.R.Pink.Third meeting on novel adjuvants currently in or close to clinical testing World Health Organization-Organisation mondiale de la Sante,Foundation Merieux,Annecy,France,7-9 January 2002.Vaccine,21,3503-3524,2003.
5)R.Medzhitov and C.A.Janeway Jr.Decoding the patterns of self and nonself by the innate immune system.Science,296,298-300,2002.
6)S.Gordon.Pattern recognition receptors:doubling up for the innate immune response.Cell,111,927-930,2002.
|