1. はじめに
近年わが国では,馬伝染性子宮炎,馬鼻肺炎,馬パラチフス,破傷風,日本脳炎などの散発的な発生や限局的な流行は認められるが,馬産業全体を脅かすような馬感染症の大きな流行は起きていない。一方,海外に目を転じると,米国ではウエストナイルウイルス感染症(1999〜2004年)や水胞性口炎(2004年)の大きな流行が起きている。また,馬インフルエンザは北ヨーロッパや米国に常在し,それらの国から輸入された馬が感染源となりアジアやアフリカでたびたび大きな流行を引き起こしている。また,馬ウイルス性動脈炎は競馬先進国でも散発的な発生が報告されている。さらに,オーストラリアでの馬モルビリウイルス肺炎(1994年,1999年,2004年)やマレーシアでのニパウイルス感染症(1998〜1999年)の発生など極めて危険な人獣共通感染症の発生もある。
今回は,わが国の馬の防疫に視点をおいて,ワクチンの接種状況,輸入検疫状況,国内および海外における馬の監視伝染病の発生状況などについて述べるとともに,馬インフルエンザとウエストナイルウイルス感染症の最新の情報についても紹介したい。なお,表題にはウイルス感染症と記載しているが,部分的に細菌感染症についても記載していることをおことわりする。
2. 日本の馬の飼養頭数
近年日本の馬の総飼養頭数は概ね10万頭から12万頭の間を推移しており,1999年以降は10万頭台を推移している。2003年の総飼養頭数は101,643頭であり,それらの用途別の飼養頭数の内訳を表1に示した。 |
表1 2003年の馬の総飼養頭数の内訳
区 分 |
|
繁殖雌馬 |
産駒 |
育成馬 |
競走馬 |
その他 |
合 計 |
軽種馬 |
389 |
11,498 |
8,775 |
8,600 |
26,829 |
― |
56,071 |
農用馬 |
397 |
5,656 |
3,730 |
3,711 |
1,324 |
― |
14,818 |
乗用馬 |
56 |
348 |
187 |
194 |
― |
12,971 |
13,756 |
小格馬 |
132 |
694 |
432 |
304 |
― |
― |
1,562 |
在来馬 |
― |
― |
― |
― |
― |
2,300 |
2,300 |
肥育馬 |
― |
― |
― |
― |
― |
13,136 |
13,136 |
合 計 |
974 |
18,196 |
13,104 |
12,809 |
28,153 |
28,407 |
101,643 |
平成
17年度馬関係資料(農林水産省生産局畜産部畜産振興課編)から引用。 |
3. 国内の監視伝染病の発生状況
表2に1994年から2003年における国内の馬の監視伝染病の発生状況を示した。この10年間において馬伝染性子宮炎,馬鼻肺炎,馬パラチフス,破傷風,日本脳炎の発生が確認されている。馬伝染性貧血は,1984年から1992年の9年間発生はなく,1993年に岩手県の農用馬2頭が定期検査で感染馬として摘発されている。それ以降発生はなく,国内では馬伝染性貧血の清浄化が確実に進んでいる。馬での炭疽の発生は極めて稀で,1981年に1頭の発生があっただけである。馬パラチフスの発生の大部分は北海道であり,その多くは釧路地方である。なお,1997年から1998年にかけて釧路地方で比較的大きな集団発生があった。2003年の日本脳炎の発生は18年ぶりに確認された鳥取県における発生例である。表2の馬鼻肺炎の発生頭数は生産地における流産の発生数を示したもので,馬鼻肺炎の呼吸器型は例年冬期に競走馬群で発生している。また,馬伝染性子宮炎は北海道に限局しており2001年以降は本病の清浄化のために実施されている検査により摘発されたものである。破傷風は毎年散発的な発生がある。 |
表2 馬の監視伝染病の発生状況
年 |
馬伝染性貧血 |
炭疽 |
流行性脳炎 |
破傷風 |
馬パラチフス |
馬鼻肺炎
(流産)
|
馬伝染性子宮炎 |
1994 |
0 |
0 |
0 |
12 |
24 |
13 |
11 |
1995 |
0 |
0 |
0 |
11 |
14 |
9 |
0 |
1996 |
0 |
0 |
0 |
9 |
15 |
24 |
26 |
1997 |
0 |
0 |
0 |
8 |
52 |
22 |
4 |
1998 |
0 |
0 |
0 |
10 |
80 |
15 |
11 |
1999 |
0 |
0 |
0 |
4 |
5 |
12 |
0 |
2000 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
12 |
1 |
2001 |
0 |
0 |
0 |
6 |
0 |
12 |
11 |
2002 |
0 |
0 |
0 |
3 |
0 |
11 |
4 |
2003 |
0 |
0 |
1 |
9 |
1 |
25 |
2 |
平成
17年度馬関係資料(農林水産省生産局畜産部畜産振興課編)から引用し,一部修正。
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4. 市販の馬用ワクチンとその接種状況
現在わが国では,表3に示したように9種類の馬用ワクチン(単味ワクチンが7種類と混合ワクチンが2種類)が製品化されている。これらのワクチンは競走馬,乗馬,繁殖馬,育成馬などに広く接種されており,馬感染症の流行防止に貢献している。軽種馬防疫協議会では馬インフルエンザ不活化ワクチン,日本脳炎不活化ワクチン,破傷風トキソイドの定期接種を奨励している。そのため,中央競馬と地方競馬に所属する競走馬にはこれら3種のワクチンが定期的に接種されている。ゲタウイルス感染症不活化ワクチンは,中央競馬所属のすべての馬に定期的に接種されている。馬鼻肺炎不活化ワクチンは,中央競馬のトレーニングセンターに新たに入厩してくる2歳および3歳の競走馬で馬鼻肺炎ウイルスに対する抗体価が低い馬を対象に接種され,更に同トレーニングセンターから退厩する競走馬で繁殖牝馬として生産地の牧場に戻る一部の馬にも接種されている。生産地においては,流産予防のために約半数の妊娠馬に馬鼻肺炎不活化ワクチンが接種されており,また将来競走馬を目指す育成馬には1歳時から馬インフルエンザ不活化ワクチン,日本脳炎不活化ワクチン,破傷風トキソイドが接種されている。新生子馬の下痢症を予防するために母子免疫ワクチンである馬ロタウイルス感染症不活化ワクチンの接種が推奨されており,多くの妊娠馬にそれが接種されている。なお,多くの乗馬にも,軽種馬防疫協議会が奨励している3種のワクチンが定期的に接種されている。 |
表3 馬用ワクチン一覧
(単味ワクチン)
1.馬インフルエンザ不活化ワクチン
2.馬ウイルス性動脈炎不活化ワクチン
3.馬鼻肺炎不活化ワクチン
4.日本脳炎不活化ワクチン
5.馬ロタウイルス感染症不活化ワクチン
6.破傷風トキソイド
7.炭疽生ワクチン |
(混合ワクチン)
8.日本脳炎・ゲタウイルス感染症混合不活化ワクチン
9.馬インフルエンザ・日本脳炎・破傷風混合不活化ワクチン
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5. 馬の輸入頭数と検疫状況
表4に1999年から2003年に輸入された馬の頭数を用途別に示した。2003年の輸入頭数は4,200頭で,その大部分は肥育用(87.1%)であり,その他競走用が6.4%,繁殖用が3.2%,乗用が3.1% である。2003年の輸入馬を輸出国別にみると,カナダが 2,294頭(54.6%),米国が1,645頭(39.2%),英国やベルギーなどのヨーロッパ諸国が172頭(4.1%),オーストラリアが63頭(1.5%),その他の国が26頭(0.6%)である。表5には,1994年から2003年の輸入検疫で摘発された馬の監視伝染病について示した。(次号へ続く)
(今川 浩:JRA競争馬総合研究所栃木支所) |
表4 馬の用途別輸入頭数
年度 |
繁殖用 |
乗用 |
競走用 |
肥育用 |
その他 |
合 計 |
1999 |
248 |
234 |
352 |
3,535 |
0 |
4,369 |
2000 |
179 |
201 |
338 |
4,130 |
24 |
4,872 |
2001 |
166 |
205 |
353 |
4,224 |
13 |
4,961 |
2002 |
117 |
187 |
327 |
4,036 |
9 |
4,676 |
2003 |
136 |
129 |
269 |
3,658 |
8 |
4,200 |
農林水産省動物検疫所「動物検所年報」より引用。 |
表5 最近の輸入馬の監視伝染病の摘発状況
| |
1999年 |
2000年 |
2001年 |
2002年 |
2003年 |
馬伝染性貧血 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
馬パラチフス |
2 |
2 |
2 |
0 |
4 |
馬ウイルス性動脈炎 |
2 |
0 |
0 |
0 |
0 |
馬鼻肺炎 |
1 |
2 |
0 |
0 |
1 |
農林水産省動物検疫所「動物検所年報」より引用。
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